トカラ列島のレントゲン便② 口之島・中之島

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口之島

指定寝台の2段ベッドでぐっすり眠り、入港を知らせる汽笛で目が覚めた。朝の4時40分。デッキに出るとあたりはまだ真っ暗で、船が口之島の港に近づいていく。いよいよトカラ列島に上陸だ。

係留するためのロープが船から投げ下ろされ、積荷のコンテナが降ろされ、船尾から桟橋に渡されたスロープを検診車が降りていく。島の人たちはすでに港で待機していて、さっそく健診の準備や荷受けが始まった。交通が不便なトカラ列島はかつて自給自足だったそうだが、いまはほとんどの生活物資を船が運んでいる。

口之島の西之浜漁港に入港。右端に乗客を降ろすタラップが見える。

船から投げ下ろされたロープを岸壁につないで船を係留する。港での作業は島の人たちが総出で行う。

食事のケータリングだろうか、船内へ料理を運ぶ人の姿も見えた。

トカラ列島の各港ではそれぞれ趣向を凝らした壁画が歓迎してくれる。

生活物資や宅配便の受け渡し。島民にとって週2便の船はかけがえのない生命線だ。

胃検診車と胸部検診車の前にテーブルと椅子が並べられて住民健診が始まった。

 

口之島は火山島で、標高425mの燃岳(もえだけ)がいまも水蒸気を上げている。口之島集落には生活用水としても利用される湧き水(カワ)があり、島の南海岸には露天風呂の瀬良馬(せらんま)温泉があり、温泉近くの原生林には純血種の黒毛和牛が野生牛として生息しているらしい。

でも、地図上では小さな島に見えても、口之島の周囲は20kmもあるうえに、山がちな地形はアップダウンが激しい。港から近そうに見える口之島集落も、気軽に歩いて行ける距離ではなさそうだ。そこで、近くの平瀬海水浴場まで海沿いの道を歩いてみた。

西之浜漁港の神社。本土と同じような鳥居がある。トカラ列島は“日本の神様の吹きだまり”という民俗学者の説もあって興味深い。

西之浜漁港の民宿は平屋でコンクリート造り。台風のすさまじさが想像できる。

港を離れたとたんに人工的な音が消えた。波音や竹林の葉ずれの音に耳をすませる。

 

30分ほど歩き、平瀬海水浴場に着いたところでタイムアップ。この先には「北緯30度線モニュメント」があるが、後ろ髪を引かれつつ西之浜漁港へ引き返す。第2次世界大戦後、日本は北緯30度以南がアメリカの統治下となり、トカラ列島も1952(昭和27)年に本土復帰するまでアメリカに占領されていた。日本で唯一地上に存在する北緯30度線がここ口之島にある。

平瀬海水浴場を過ぎるとひたすら上り坂が続く。道のずっと先には北緯30度線モニュメントがある。

山側はリュウキュウチクが鬱蒼と茂っていた。

平瀬海水浴場のベンチでひと休み。空気が澄み、まだ朝露が残るすがすがしい時間。

広い空にえんえんと飛行機雲が延びていく。

火山島に独特の山並みが朝日を浴びて美しい。中央に見えるのは横岳の無線中継局。

 

西之浜漁港の近くまで戻ってきたら汽笛が鳴り響いた。あと15分で出航。島に降りた旅行者が次々と急ぎ足で船に乗り込む。フェリーとしま2は定刻の7:00ちょうどに離岸した。

自転車で長期旅行中の女性。各島をたくましく走りまわっていた。

検診車はバックで乗船。これから各島で繰り返し眺めることになる光景。

 

口之島メモ
面積:13.33 km2 周囲:20.38 km 最高点:628.2m 人口:129人
みどころ:口之島集落のカワ(湧き水)、平瀬海水浴場、フリイ岳、瀬良馬(せらんま)温泉、北緯30度線モニュメント、タモトユリ、アダン(北限)、野生牛

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武藤 奈緒美

Naomi Muto, photographer
1973年、茨城県日立市生まれ。趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪、きもののあれこれ。昨今はとりわけ民俗学や日本の手しごとに強い関心がある。

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