中之島
中之島はトカラ列島の中心的な存在。もっとも面積が大きく、人口も最大で、十島村役場の支所が置かれている。歴史民俗資料館や中之島天文台、西区温泉、東区温泉などの諸施設も充実。トカラ列島で最高峰の御岳(979m)がそびえ、日本在来種のトカラ馬が飼育されている。ちなみに、中之島天文台はバブル時代のふるさと創生事業で建てられたという。1億円の使いみちとして無駄な大バコや金塊よりずっと好感がもてる。
中之島への入港は7:50。すでに日は高く、夏のような暑さだ。下船すると、広々とした桟橋で住民健診が始まっていた。健診の横では狂犬病の予防注射も行われている。飼い主に連れられてきた犬たちが、注射に怯えて落ち着きなく動きまわっていた。
中之島には3つの集落がある。いちばん古い西集落、奄美大島から移住してきた人たちの東集落、戦後に開拓された新しい日之出集落。西集落と東集落は中之島港の近くにあり、それぞれ集落の人たちが管理する温泉施設がある。島民が集まって賑わっている港を離れてぶらぶらと歩いてみた。温泉独特の硫黄の匂いが漂ってくる。西集落から東集落へ向かう途中、大きな鳥居のある神社、郵便局、診療所、旅館を通り過ぎた。
西集落から東集落への道は海沿いだが、高い防波堤に阻まれて道路から海は見えない。温泉もコンクリートの壁で台風から守られていた。西区温泉も東区温泉も24時間いつでも入れるので、滞在時間に限りがある旅行者でも利用しやすい。どちらも乳白色のいいお湯で、源泉が70度前後と高温だからか、浴槽のお湯もけっこう熱めだった。
中之島の温泉は成分が強いのか、船中泊で寝不足のせいなのか、外に出ると軽い湯あたりを感じたものの、体がぽかぽかして気持ちがいい。東集落の端まで歩いて振り返ると、「トカラ富士」の愛称で呼ばれる御岳(おたけ)の勇姿を見晴らせた。
同行のフォトグラファーは、集落で会ったヤギの飼い主に誘われて、車で御岳のすそ野に広がるトカラ馬牧場へ。トカラ馬は1955(昭和30)年頃に喜界島から宝島に移入され、戦後になってトカラ馬と呼ばれるようになった日本の在来種。西洋種の影響を受けていない小型の馬で、現在は中之島と宝島で飼育されている。
トカラ馬牧場の向かいは歴史民俗資料館。土器、漁具、民具などが展示され、トカラ列島の歴史、文化、暮らしをコンパクトに学べる。中之島の東部では縄文時代晩期の遺跡も発掘されていて、古くから人が住み着いていたことがわかる。
出港時刻が迫ってきたので再び中之島港へ。桟橋から海をのぞきこんでいる作業着の人たちに近づいてみると、すぐ足下の海にたくさんの魚が泳ぐのが見えた。白と黒、白と黄色の縞々のチョウチョウウオに、ユーモラスな顔つきの青いブダイ。「手前の岩の上にいるのがシャコ貝。あそこの岩の間にはイセエビのヒゲが見えるでしょ?」と教えてくれるが、見慣れないせいかなかなか気づけない。
フェリーとしま2は10:05に中之島を出港。次は荒々しい溶岩に覆われた活火山の諏訪之瀬島へ向かう。
中之島メモ
面積:34.42 km2 周囲:31.80 km 最高点:979m 人口159人
みどころ:中之島天文台、歴史民俗資料館、西区温泉、東区温泉、御岳、御池(底なし沼)、“汽船も亦道路なり”石碑、ヤルセ灯台、トカラ馬
(つづきます)
写真:武藤奈緒美
文:根本聡子
旅行した日:2018年5月14日〜17日
※各島のデータは十島村役場公式サイトより引用(2018年3月31日現在)