トカラ列島のレントゲン便④ 小宝島・宝島

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鹿児島県十島村、トカラ列島
Tokara Islands, Toshima Village, Kagoshima, Japan

旅の3日目は小宝島と宝島へ。火山活動によって造られたこれまでの険しい島々と違って、サンゴ礁が隆起してできたこの2つの島は平地が多く、南国らしいおだやかなたたずまいです。岩山も海岸も琉球石灰岩に特有の明るい色合い。悪石島と小宝島の間には動物の分布境界を示す渡瀬線が引かれ、トカラ列島の有人島のうち小宝島と宝島だけにハブが生息しています。夕方、奄美大島の名瀬港でトカラ列島の旅は終わりました。
(写真:武藤奈緒美、文:根本聡子)

On the third day we visited Kodakarajima and Takarajima which mean treasure islands. These two islands had been created by coral reefs rising out of the Ocean and they have the flat grounds and the rocks of limestone. That topography makes a calm and bright atmosphere, being much defferent from other islands of Tokara created by volcanic activities. There is the border of animal distribution “Watase-line” between Akusekijima and Kodakarajima, and poisonous snake “Habu” inhabit in Kodakarajima and Takarajima. We finished our trip at Naze in Amamiooshima.
<photographs by Naomi Muto, text by Satoko Nemoto>

 

小宝島

中之島より南の島々は港が小さかったが、小宝島の港はさらにこぢんまりしていた。鹿児島本土からトカラ列島への定期船が就航したのが1933(昭和8)年。当時は定期船が接岸できる島はなく、沖合に停泊した船に艀(はしけ)で渡り、荒波にのまれる危険を冒して人や荷物を乗り降りさせていた。なかでも小宝島は1990(平成2)年に定期船が接岸できるようになるまで、日本の有人島で最後まで艀作業を行っていたという。

小宝島の入港は8:20。桟橋に降り立つ乗客に、「ロープに近づかないで!」「車が通るからよけて!」と注意を促す怒声が飛ぶ。ピンと張られた係留のロープがはずれると大ケガをすると言われて、下船すると早々に港を離れた。振り返ると、船から降ろしたコンテナも防波堤の上にのせているほど桟橋は狭い。

タラップを降りるとすぐ防波堤に突き当たるほど小宝島港は小さい。

小宝島は洋上から見ると妊婦が横たわっている姿だそうで、“子宝に恵まれる”という言い伝えもある。

 

小宝島は周囲4kmの小島で、30分ほどで一周できるらしい。でも、出港までは1時間20分しかない。しかも、船に戻る時間は出港15分前だったのが、遅れて来る人がけっこういたからか、そのうち出港20分前になり、小宝島では出港25分前に決められていた。無理して一周するのはやめて、集落までゆっくり歩くことにした。

平家の隠れ家といわれる大岩屋を右に折れると、海側の一帯に広々とした草地が広がる。これまで見てきた険しい地形の島々から一転、隆起サンゴ礁でできた小宝島は平坦な道が続いていた。長い年月をかけて侵食された奇岩があちこちにそそり立ち、なかには神の名が付けられた神聖な岩もある。港に近いこの草地は南風原(はえばる)牧場で、たくさんの牛が放牧されていた。ここから出荷される仔牛が全国各地でブランド牛になる。

巨大なマッシュルームのような奇岩が草地にぼつんとたたずむ。

姿のよい牛たち。左端に見える奇岩はうね神と呼ばれている。

南風原牧場の厩舎を見せてもらうと、仔牛にじっと見つめられた。

これから出荷する仔牛。生産者によると生まれて8カ月だそう。

左にうね神、中央に赤立神が見える。どちらも小宝島のシンボル的な奇岩。

 

南風原牧場を過ぎて集落への道を進む。集落の入口に小宝神社があり、道沿いにハイビスカスの花が咲いていた。住民健診の最中なので人の気配はなく、緑に囲まれた静かな通りをのんびり散策する。

すれ違った村役場の職員から、藪の中に入らないように注意された。トカラ列島は温帯と亜熱帯、大和文化と琉球文化の境目にある地域だが、動物の分布境界線も悪石島と小宝島の間にあり、小宝島と宝島だけにハブが生息している。奄美諸島のハブほど毒性は強くないそうだが、道の端を歩かないように気をつけた。

海中のサンゴ礁が隆起して、長い時間をかけて風化。琉球石灰岩は独特の景観を造り出す。

小宝島は亜熱帯気候。ハイビスカス、アダン、ソテツなどが自生する。

さまざまな種類と色のハイビスカスの花が風に揺れていた。

鳥居の真ん中に小宝神社の文字が見える。手入れが行き届いた境内。

集落の軒先で育てられている花々も目を楽しませてくれる。

島の中央に盛り上がった竹の山はわずか102.7mの高さ。小宝島は水不足に悩まされてきたといい、空撮写真を見ると頂上付近に貯水池が残っている。

 

奇岩の赤立神が立つ海水浴場までは行けず、近くの海岸をぶらぶら歩きながら港へ戻る。9:40に小宝島を離岸。「本船は宝島へ向けて出港いたしました」と心躍るアナウンスが流れた。

島の周辺は隆起サンゴ礁の浅瀬だが、沖へ出ると600mぐらいの深さまで落ち込む。船上から眺めると海の色が急に濃くなるのがわかる。

小宝島を出港。エンジンで海水がかき回され、クリームソーダの色に変わった。

 

小宝島メモ
面積:0.98 km2 周囲:4.74 km 最高点:102.7m 人口:53人
みどころ:うね神、赤立神、牛牧場、大岩屋(平家のかくれ家)、外ばんや・ばんや、艀(はしけ)、湯泊温泉
注意点:トカラハブ

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武藤 奈緒美

Naomi Muto, photographer
1973年、茨城県日立市生まれ。趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪、きもののあれこれ。昨今はとりわけ民俗学や日本の手しごとに強い関心がある。

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